桜
弥生門の前で件の先輩に会ったので名前呼んで手振ったのに思いっきり無視されてつらい。
さっきまで明らかこっち見てたのに声かけたら急に弥生門凝視し始めた。
そんな見所ありますか弥生門?ムカつくからわたしもしばらく弥生門凝視してやったけど一つもそんな見るとこわからんかったわ。
一般論として知っている先輩に挨拶しない方が失礼じゃね?わからん
日々先輩のことを考えることは減っていって、
今日は本郷の桜が綺麗で、
昼休みの安田講堂は新三年生で溢れていて。
わたしが東京にいない間にすっかり、春が来たみたいだった。
ついに三女です。
大学生活ももう後半。
院進するのか就職するのかとか、どういう専攻に行くのかとか、将来は何をしたいのかとか。
大学時代前半に先送りしていたものが、後期課程進学とともに急にのしかかってくる。
わたしは大学入学からの時間をあの先輩と過ごしすぎて、こういう時に思い出すのはちょうど1年前に語ってくれた彼の夢の話だったりして、不意に切なくなる。春。あの日わたしと先輩が見たのは駒場の桜だったのに。
密度の濃い思い出が染み付きすぎた東京という街は、歩くだけ思い出し笑いをしたり、悲しくなったり。
さあ、また思い出を作りに。
学科のプロジェクトの打ち上げのために、わたしは半年前にあの先輩に連れられ歩いたスクランブル交差点で無数の人とすれ違うのです。